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【方剤】当帰四逆湯について

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当帰四逆湯とは?

この記事のポイント

小建中湯は『傷寒論』に初出する、温裏薬の代表として幅広く使われる方剤の一つである。大人から子供まで、利用できる範囲も広い。それぞれの状況に応じて生薬の加減をして利用されることも多い。

当帰四逆湯の出典

当帰四逆湯は『傷寒論』に初出する。

当帰四逆湯の分類

  • 温裏剤
  • 温中袪寒 
  • 回陽救逆
  • 温経散寒 ← 当帰四逆湯

当帰四逆湯の組成

組成性味帰経
当帰12g苦・辛・甘肝・心・脾
桂枝9g辛・甘心・肺・膀胱
芍薬9g苦・甘微寒肝・脾
細辛1.5g肺・腎
甘草5g心・肺・脾・胃
通草3g甘・淡微寒肺・胃
大棗8枚脾・胃
※用量は特に注意がない場合は『中薬学』上海科学技術出版社を参考にしています。

当帰四逆湯の効能

  • 温経散寒
  • 養血通脈

当帰四逆湯の主治

1.陽気不足で血虚や外側が寒邪を受けたとき

手足厥冷、舌淡苔白、脈細欲絶あるいは沈細

2.寒が経絡に入ったとき

腰、股関節、足、脚などの痛み

当帰四逆湯の方解

 四肢(手足)は諸陽の本である。そのため、陽気が不足すると、四末(手足の先)はその温養を失うため、手足は厥冷する。陽微陰盛証におけるその他の症状を見るまでもなく、脉が細にして欲絶があれば、これは血虚にして経脉が寒をているがために、血脉不利であることがわかる。手足厥寒には、指先から腕に至るまでが温まらない場合と、四肢厥逆の区別がある。まさに成無己が言っているように、「手足厥寒するものは、陽気外虚して四末を温めることができず、脉が細く欲絶するものは陰血内弱で、脉の巡りは利さず」となる。こう言う場合は、ただ温経散寒、養血通脈の方法を用いて治療するのみである。

 当帰四逆湯の組成を見ると、桂枝湯(桂枝、芍薬、甘草、生姜、大棗)から生姜を抜いて、大棗を倍増にして、当帰、細辛、通草を加えたものになっている。

当帰

当帰は苦・辛・甘にして温であり、補血和血の作用がある。芍薬を合わせる血虚を補うことができる。

桂枝

桂枝は辛・甘にして温であり、温経散寒の作用がある。細辛と合わさると内外の寒を取り除く。

甘草・大棗

甘草・大棗は甘、益気健脾の作用がある。それにより、当帰、芍薬の補血を助け、また、桂枝、細辛を助けて陽気を通すこと(通陽)ができる。

通草

通草を加えることで、さらに経脉を通じやすくすることができる。また、陰血を充実させて、身体に入った寒邪が除かれることによって、陽気が経脉に通じ、手足を温めて脈も回復することになる。

芍薬

当帰と合して内外の寒を取り除く。

当帰四逆湯についてその他の見解

『傷寒論』には。当帰四逆湯の他に“四逆”と命名された漢方薬がある。それは「四逆湯」「四逆散」「当帰四逆散」の三方であるが、これらの主治と用薬は異なる。周愓俊は次のように述べて、その違いを述べている。「四逆湯全従回陽起見、四逆散全従和解表裏起見、当帰四逆湯全従養血通脈起見」。当帰四逆湯は、経脉に寒邪があり、血渋不通による腰、股、腿、足の疼痛を治す。

当帰四逆湯の附方

1.当帰四逆加呉茱萸生姜湯

『傷寒論』
当帰四逆湯に呉茱萸(5g)、生姜半片(15g)を加えたもの。
効用: 温経散寒
主治: 手足厥冷、脈細欲絶、内に久寒を有するもの。

2.黄耆桂枝五物湯

『金匱要略』
黄耆(12g)、芍薬(9g)、桂枝(9g)、生姜(12g)、大棗(4)
効用: 益気温経、和経通痺
主治: 血痺証。肌膚麻木不仁、脉微渋にして緊

 (1)の当帰四逆加呉茱萸生姜湯を用いる場合は、当帰四逆湯証の中でも、内側に久寒があるときである。このときはすでに久寒があるため、大便溏薄、嘔吐、脘腹疼痛などの症状があるため、呉茱萸、生姜を加えて温中散寒の効用を増強している。では、内側に久寒があって手足厥寒や脈細欲絶があるのに、どうして附子や乾姜を用いないのだろうか?それは、当帰四逆加呉茱萸生姜湯の証は、原因が陽虚有寒、または陰血内弱にあり、かつこのときの病状は四逆湯証ほど危急ではないからである。附子や乾姜は辛熱燥裂の品のため、煉耗陰血することになるので、それを避けるためである。
 (2)の黄耆桂枝五物湯は、血痹を治療するが、桂枝湯から甘草を去り、生姜を倍にして黄芪を加えたものである。血痺の体質、素体に「骨弱肌膚盛」とあるが、これは、労して汗が出て、腠理が開いて微風を受け、邪が血脈に凝集したものである。肌膚麻木、不仁、ただし無痛、状態は風痹のごとく、脉が微渋兼緊などがある。『素問・痺論』には、「営気虚、則不仁」とある。方解は、黄芪と桂枝を合することで益気通用、芍薬は養血和営、生姜、大棗は調和営衛。黄耆桂枝五物湯の主旨は、温通陽気、調暢営血にある。故に甘草の緩を去り、生姜の散を倍増して、微邪を去らしめることで、血痺は自ずから通じて癒える。

参考資料

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この記事を書いた人

源保堂鍼灸院・漢方薬店薬戸金堂 瀬戸郁保

瀬戸郁保
IKUYASU SETO

鍼灸師・登録販売者・国際中医師

古医書に基づく鍼灸を追究しさらに漢方薬にも研究を拡げています。東洋医学の世界を多くの方に知っていただき世界の健康に貢献したいと思います。
東京の表参道で、東洋医学・中医学に基づいた源保堂鍼灸院・漢方薬店 薬戸金堂を営んでおります。

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