【漢方薬・方剤】小建中湯について
小建中湯とは?
この記事のポイント
小建中湯は『傷寒論』に初出する、温裏薬の代表として幅広く使われる方剤の一つである。大人から子供まで、利用できる範囲も広い。それぞれの状況に応じて生薬の加減をして利用されることも多い。
小建中湯の出典
小建中湯は『傷寒論』に初出する。
小建中湯の分類
小建中湯の組成
小建中湯は、桂枝湯の組成のうち芍薬を倍増して飴糖を加えたものである。
組成 | 性味 | 帰経 | ||
芍薬 | 18g | 苦・酸 | 微寒 | 肝・脾 |
桂枝 | 9g | 辛・甘 | 温 | 心・肺・膀胱 |
炙甘草 | 6g | 甘 | 平 | 心・肺・脾・胃 |
生姜 | 10g | 辛 | 微温 | 肺・脾 |
大棗 | 4枚 | 甘 | 温 | 脾・胃 |
飴糖 | 30g | 甘 | 温 | 脾・胃・肺 |
小建中湯の効能
小建中湯の主治
小建中湯の方解
本来は外感傷寒病に用いられるものだが、内傷雑傷にも用いられることもあり、応用範囲の広い方剤である。
虚労裏急にして腹中が痛む。温按するとそれが減じる。
これは、労傷内損して中気虚寒したことによって肝来乗脾になったためである。
脾は生化の源 = 精を散じて肺に帰し、四肢を主る
心は脾の母 = 血脈を主る、神を蔵す、華は面にあり
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脾虚気寒になると生化の源も悪くなるので、気血ともに欠乏して営衛も失調する。
そのため、四肢や脾の器官に影響が出るようになる(四肢がだるく痛くなる、手足煩熱、咽乾口燥)。
さらに、脾が虚すとその子である心にも影響が及ぶようになり、心の症状(心中動悸、虚煩不寧、面色無華)が出る。
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治療は「補脾」が主になる。
温建中陽にして養陰も兼ねて、和裏緩急して止痛することもできる。
飴糖
君薬になる。甘温で潤の性質があるので、脾気を増し、脾陰を養い、中焦を温補する。また、肝の急を緩めて、肺の乾燥を潤す。
桂枝
温陽気。臣薬。
芍薬
益陰血。臣薬。
炙甘草
甘温益気。飴糖、桂枝を助けて、益気温中する。佐薬。
芍薬
酸甘化陰にして益肝滋脾。佐薬。
生姜・大棗
生姜:温胃
大棗:補脾
生姜、大棗は、双方合して昇騰中焦して気を生じ発して、津液を巡らせ営衛を調和する。
佐薬としてはたらく。
以上の六味が配合されることによって辛甘化陽の中に、酸甘化陰の働きも備えており、それが相まって温中補虚、和裏緩急の効能を奏する。
中気がしっかと立ち上がり、化源をする力がある充実してくれば五臓が養われてくるので、裏急腹痛、手足煩熱、心悸虚煩が取り除かれていくことになる。
小建中湯についてその他の見解
臨床で用いるときは、方剤の本意に基づきながら、各中薬の配伍量の比率を変化させてみることも。
『傷寒論』より
「傷寒陽脉渋、陰脉弦、法当腹中急痛、先與小建中湯、不差者、與小柴胡湯主之」
この『傷寒論』の記載を見ると、小建中湯は温中補虚の方剤であることがよくわかる。傷寒太陽病のときに現れる「陽脈渋」は「中焦営衛の不足・脾胃虚寒」のことで、「陰脈弦」は「脾胃虚寒、木乗土」ことで、症状としては「腹中急痛」となる。このようなときには小建中湯が中焦営気を温め建て直して腹痛が治っていく。ただし、この状況で腹痛が改善しない場合は、今度は小柴胡湯を再投与することで転枢して邪気が外に達し、病は自ずから癒えていく。
「傷寒二、三日、心中悸而煩者、小建中湯主之」
傷寒二、三日の時期になっても発表剤・解表剤を飲み続けていると過剰になる。というのは、悪風寒の症状がすでに無くなって二、三日経過したものに対してさらに汗を出させたりすると、虚証になってしまうからだ。この状況で虚証になると、営血がすでに虚しているので、血が心を営ずることができないために心悸になり、血虚になれば心神は拠り所を失うので虚煩が現れる。
参考資料
この記事を書いた人
瀬戸郁保
IKUYASU SETO
鍼灸師・登録販売者・国際中医師
古医書に基づく鍼灸を追究しさらに漢方薬にも研究を拡げています。東洋医学の世界を多くの方に知っていただき世界の健康に貢献したいと思います。
東京の表参道で、東洋医学・中医学に基づいた源保堂鍼灸院・漢方薬店 薬戸金堂を営んでおります。
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