『丁先生、漢方って、おもしろいです。』

  • 著者 丁宗鐵・南伸坊
  • 出版社 朝日新聞出版
  • おすすめ度 ☆☆☆☆☆

丁宗鐵先生は南伸坊さんの主治医です。数年前、大病院で肺がんのうたがいをかけられた南さんは、検査づけでしたが、丁先生の診察を受けるようになりました。病気にかんするあれこれを質問すると、丁先生は縦横無尽に答えました。南さんは思わず「エエーッ!? 先生それ、どういうことですか!?」

素直な姿勢の問答集

 著者の一人である南伸坊さんは、イラストレーター。著書もいくつかありますが、どれもウイットに富んだもので、くすっと笑えるものなどが多くあります。南さんの師匠は赤瀬川原平氏であることからもその加減がわかるかと思います。
 そんな南伸坊さんは、作品を読むからに、とても素直な方とお見受けすることができます。
 この素直さは、真っ新(まっさら)であるという意味でもあり、これは学問を始めるにはとても大事なこと。何の偏見もなく、スポンジが水を吸うようにじわっと浸み込むことができるという理想的な姿勢です。この素直な姿勢があるがゆえに、聞き役としても適任。知ったかぶりをすることもなく、知らないことを恥じ入ることもなく、そして出しゃばるわけでもない。
 本書は、“究極の素人”である南伸坊さんが、漢方薬や東洋医学に対して率直に感じたこと、素直に感じる疑問などを、ご自身の主治医である丁宗鐵先生に訊ねた問答集です。丁宗鐵先生もそれに応えるようにとても丁寧に、そして時に熱く語っていくところがわかりやすく、そしてとてもおもしろいです。
 対談集の悪いものは、話がかみ合っていないものや、お互いの話が横道にそれすぎてしまうものなどがあります。また、ただ話をして終わりという安易なものも見受けられるわけですが、本書はしっかりと噛み合っているところは当然として、ワンクール対話を終えた後に、必ず丁先生のまとめが入るところが構成として読みやすく、内容の確かさもしっかりとフォローされていて本書の価値を高めているように思います。

漢方を復興していく

 本書の中で話されている内容は多岐に渡りますが、南伸坊さんの素朴な疑問から始まっていますので、特に初心者にとってわかりやすい内容になっています。

 そこで、最初の章のタイトルが『漢方が西洋医学に敗けたワケ』。
 日本は明治維新のときに国の体制が根こそぎ変わったわけですが、医療についても大きな変革期になりました。江戸の後期から緒方洪庵や杉田玄白などの尽力によって、それまで漢方医学一色だった中に蘭方が入ってきました。そして江戸幕府倒壊とともに漢方と蘭方の立場は逆転し、国は一気に西洋医学に舵を切りました。
 この流れから見ると、誰もが漢方は西洋医学に敗けたという印象を持ち、この印象は今日に至ってもまだ払拭されていません。そのためか、医療者の間ではもちろんのこと、一般の人々においても、漢方は薬草を使った古い医療というイメージが根強く、市民権を得ているようには思えません。どうしてこのようなことになってしまったのか、そのことを丁先生が力強く、そしてある面では東洋医学・漢方を批判的に自己反省しているところもあります。

 以上のようなトーンから、だんだんと東洋医学・漢方の優位性を立証し、そこからまた復興していきましょうという気概を感じるところがあります。

 南伸坊さんの柔らかい人柄が前面に出ているため、本書の印象はとてもソフトでありますが、しかしその内容は漢方好きによる漢方の復興とでもいったような、とても熱いものを感じます。ところどころ豆知識も多く、そのような小ネタは患者さんと接するときなどにとても良い話のタネになるのではないでしょうか。東洋医学・中医学・薬膳を学び始めた方だけではなく、また新たな視点をいただく感じで読んでみると、新たな発見がある一冊になります。

著者のその他の本

丁宗鐵の本

南伸坊の本

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この記事を書いた人

源保堂鍼灸院・漢方薬店薬戸金堂 瀬戸郁保

瀬戸郁保
IKUYASU SETO

鍼灸師・登録販売者・国際中医師

古医書に基づく鍼灸を追究しさらに漢方薬にも研究を拡げています。東洋医学の世界を多くの方に知っていただき世界の健康に貢献したいと思います。
東京の表参道で、東洋医学・中医学に基づいた源保堂鍼灸院・漢方薬店 薬戸金堂を営んでおります。