『劇的、漢方薬』シリーズ

  • 著者 益田総子
  • 出版社 同時代社
  • おすすめ度 ☆☆☆☆

西洋医学の小児科医だった著者が、日々の臨床の中で漢方薬を使い始め、いつしかその虜になっていく。そして、今や漢方薬を出す西洋医として多くの人を治療に導くまでになっている。漢方薬独特の世界観は皆無であるため、そう言った処方を好む人にとっては毛嫌いされるだろう。だけど、本書を通していくと、方剤がどういったタイプに効くのか、タイトル通り、その劇的な変化を垣間見ることで、一つの処方法として参考になります。

効果は患者さんが感じること

 漢方薬の世界はいろいろと癖がある。
 特に日本漢方を標榜している方などにはその傾向が強いではないだろうか(あくまで私見ですが)。たとえば、登録販売者の試験にも問われる設問にもそれが出ていたりする。中医学と日本漢方はお互いその違いを主張し合っていて、ともすると牽制し合っているようにも感じる。日本漢方を意識している漢方医の中には、中医学の弁証の根拠にとなる五行とか陰陽とかをとても毛嫌いする方も多いそうだ。逆に、中医学を主体にしている漢方医は、弁証論治をしない漢方の先生に嫌悪感を感じる人もいるという。
 しかし、いずれにせよ、漢方薬を扱っている先生の信条や流派がどうであれ、大事なのは患者さんに向き合っているかどうかだ。つまり、患者さんにとって、ちゃんと漢方薬が効いて、もっと言うならば、気休めではなく、その人の人生がちゃんと好転しているかどうかである。流派どうのこうのよりも、漢方薬が効いたかどうかを判断するのは患者さんなのだ。理論や理屈を振りかざして自分の立場を主張したとしても、肝心の患者さんが効果を感じなければそれはただの空理空論、絵空事に過ぎない。
 とかく漢方薬を扱っている医療者の中は、自分の立場や自慢話は得意だが、患者さんを本当に楽にしてあげてるかどうかは疑問という人も少なくないと感じる。

経験で処方する姿勢

 ここで紹介している本の著者、益田総子先生は、漢方薬を扱っている医師であり、そして本書のタイトル通り、その漢方薬の素晴らしさを伝えている。しかし、にもかかわらずである。“私は漢方薬の専門家なんて言えないし〜”とか、”私は漢方薬の世界では門外漢だから〜”というような、半ばどっちつかずで投げやりな態度を見せたりする。つまり、著者の益田総子先生は漢方薬を臨床に利用しているけれど、上述したような漢方薬の独特な世界に嫌悪感を抱いている立場の人であり、そしてかつ、西洋医学の医療の現場に対しても不満タラタラという側面を持っている。なので、読んでいてどっちつかずの態度がちょっとどうかなとは思う。でも、それを差し引いても本書には何か惹きつけるものがある。

 著者は漢方薬につきまとう陰陽や弁証といったことが嫌いだから、本書にはそういった理論的な話は一切出てきません。もし、本書をそのために読もうとするのであれば、手にしないほうが良いだろう。

 では、益田総子先生の処方は、何を元にしているのだろうか?

 それは、ズバリいってしまえば勘のようなもの。
 もちろん、それは著者のこれまでの医師としての経験を土台にしているから、適当な勘ではない。
 そして、漢方薬を扱ってから数多くの患者さんを通して培ったものがバックボーンになっている。
 その勘所みたいな臨床のコツを感じることができるのが、本書の良いところだと思います。

 本書を通して読んでいると、患者さんをすごく観察しているのは分かるけれど、申し訳ないが、日本の鍼灸師の一流どころと比べると大したことはない。でも、それでも結果が出ているところが、著者のすごいところであり、そこから何かを学べる何があるというところである。

気になるところ

 ただ、気になるところがないでもない。
 それは、漢方薬をメインで扱っている漢方薬局や漢方薬店に対して、「高い」と言っているところ。薬局薬店で扱っている一般医薬品は保険が効かないから全て自費になる。しかし、これは制度の問題であって、薬局や薬店のせいではない。漢方薬を扱っている薬局や薬店は、中には高い商品を優先的に紹介するような、ビジネスとしてやっているところもあるだろうが、多くの場合、患者さん目線に立っているところがほとんどだと思う。そして、そういった患者さん目線のところは、勉強もしているからしっかりと結果も出す。この劇的漢方シリーズの著者は、そこは知らないのだろうと思うからそう言っているだろうと思うけど、ここは残念だなと正直に思うところでもあります。

症例集・古方の勉強に

 このレビューを書いている私は、後世方派や中成薬から漢方薬の世界に入ったので、古方のことはイマイチピンときていなかった。しかし、本書を通して、古方の良さ、古方のキレの良さを実感することができた。そして、型にはめるわけではないけれど、この漢方薬にはこう言った傾向があるというイメージを捉えることができるようになった。これは、本書を読んでの収穫ではないかと思います。本書はシリーズとしてたくさん出ているけれど、じっくり読まないまでも、ある程度大雑把に読み進めておくと、方剤の特徴が染み入るようにわかってくるのではないかと思います。
 漢方薬をしっかり学びたい人、中医学的な処方をしたいと思っている方には本書は不向きだと思いますし、”こんなの漢方処方ではない!”と怒りにも似た感触を得るかもしれない。
 本書はそもそも医療エッセイであり、その延長としての処方例、そして苦手な古方をイメージするためのものだと思えば、とても有意義なシリーズだと思うのであります。

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