• 著者 加藤千恵
  • 発行 大修館書店
  •  お薦め度 ☆☆☆☆
  • 東洋医学・鍼灸医学にも小児科、産婦人科と言ったものがあります。お腹の中の胎児の発達の仕方も、各月による分類がされています。その分類と重なるのが道教の「胎」の思想です。本書は臨床の考察にも使えるような部分もあり、参考になる一冊です。

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東洋医学・鍼灸医学の古医書の背景には、身体を読み解く古代の智慧がたくさんあります。それは、身体をシステムとして読み解くためには不可欠な思想的背景も含まれます。そのうち、東洋医学・鍼灸医学の身体観に大きな影響を与えているのが、道教でもあります。他の書評にも載せましたが、道教という宗教のようなものと、科学であるべき医学が同一の視点に組み込まれることは、身体という現実の真理の前に無益であるばかりでなく、かえって弊害を起こすのではないかと思われるかもしれません。しかし、ある面では道教の身体観は、身体という現実を読み解くために、必要な“真実”を伝えているという側面も少なくありません。そういった意味で、東洋医学・鍼灸医学を学ぶものにとって、道教の身体観を知っておくことは、鍼灸の臨床にも大きなヒントになることでしょう。

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本書は道教の中でも、「胎」というものに焦点を当てたものです。不老不死の身体を求めること、それは生ながら仙人になっていくこと、そしてそのためには、生ながら再び胎児の状態に戻り、生まれ直すことが必要であると著者は分析します。懐胎から出産までの古代の観察は、現代医学の発生学に通じるものがあります。現代でこそエコーなどの画像診断装置が発達したおかげで、母のお腹の中での胎児の発育を如実に知ることができますが、当時はそんな装置もありません。しかし不思議と、十月十日の胎児の発達と段階を、古代の人々は知っており、そしてそれを胎児の発育に結び付けてきました。

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東洋医学・鍼灸医学を学ぶものにとって特に本書が有益になる部分は、懐胎十月観、小宇宙としての人体、陰陽の交合といった箇所です。懐胎十月観は、いわば東洋医学・鍼灸医学の発生学ですが、この発生学は、無極、太極、陰陽といったことと密接に関係し、この発生学の陰陽の概念は、臓腑を陰陽に分けたり、三陰三陽と言ったものを理解するためにとても参考になる考え方です。また、東洋医学・鍼灸医学を特徴付ける身体構造の概念に、「命門(めいもん)」というものがありますが、この命門を理解するには、東洋医学・鍼灸医学の発生学を知っていくとより理解が深まると思います。

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本書は道教を扱った本ですが、道教の考え方も取り入れた(というべきか、自然の構造を読み解いた道教の教えが、同じ自然の一つである身体を包含しているからなのか)東洋医学・鍼灸医学への理解に相通じるものがあります。懐胎十月観は、妊婦さんの鍼灸治療を行う上で、よく知っておくと妊婦さんへのアドバイスやヒントにもなると思います。そういった意味で、本書は東洋医学・鍼灸医学を学ぶものとして、一度目を通しても損はない一冊になっています。

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