• 著者 田尻 祐一郎
  • 発行 中央公論新社
  •  お薦め度 ☆☆☆☆
  • 本書を読むと、江戸時代はとても文化的に豊かな時代であったことを知ることができる。江戸時代の思想をリードした人物に、医家出身が多いと言う一文が印象的である。

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日本の東洋医学・鍼灸医学は、本家の中国とはまた違った特徴があると言われています。古くは丹波康頼からはじまり、田代三喜や曲直瀬道三が室町時代に出現し、その道は少しずつ日本の個性をまとうようになっていきました。そして空前の太平の時代となった江戸時代には、出版業の隆盛とともに、岡本一抱をはじめとする古医書の解説書が出回ることになり、また杉山和一が菅鍼術を発明したことにより、日本の鍼灸の独自性はさらに際立っていきました。こういった東洋医学の歴史の中にあって、江戸時代とはどういう時代であったのか、そしてその江戸時代の思想はどのようなインパクトを社会に与えていたのだろうと思いを馳せます。

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本書は東洋医学や鍼灸に直接関係する本ではありません。ですので、東洋医学や鍼灸を学ぶための本ではありません。本書は、江戸時代の思想史がどのように発展していったのか、そしてそれがどうやって近代国家へのバトンを渡す役目になったのかということを概観するための本です。直接関係はしないので、本書をここで語紹介する意味もないのではと思いました。しかし本書の中で、江戸の思想史をリードした人物には医学を修めた者が多いという記述があり、これは鍼灸師にとっても朗報ではないかと思いました。

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以前私は、当時所属していた鍼灸の研究会の講演で、早稲田大学教授の講師から、山鹿素行や中江藤樹のお話しを聞きました。しかしその両者の人物名を聞くのはその日が初めてで、全くちんぷんかんぷんで面白みに欠けるということがありました。もしその頃本書を手にしていたら、もう少し興味を持ってその講演を聴くことができたのに・・・と思います。朱丹溪などはかなり儒教の影響を受けて、それを身体観に応用にしておりますので、東洋思想を知り、その思想史を理解することは決して無駄ではないと思います。本書の内容は、どこかで東洋哲学ともつながっているような気もするので、ここに掲載させていただいた次第です。